まず、はじめの感想は「唐突だな」というものです。一体、誰の入れ知恵なのでしょうか?報道によれば、「地域活性化のため」となっています。確かに、TOPチームがある事により地域が活性化される側面がある事は否定しません。ただ、球団を作ったからと言って、いきなり、はい、地域活性化しました!という単純な話ではないはずです。これでは、今までの箱もの行政と全く変わりません。「空港作れば地域活性化するね」というのと全く同じ発想です。そんな人気取り政策にプロ野球界、スポーツ業界が振り回される姿を私は見たくはありません。
16球団にする前に球界がやるべき事、出来る事は山の様にある
16球団にする事に真っ向から反対しているわけではありません。ただ、「今じゃないでしょ!」というのが私の意見です。その前にまだまだするべき事、出来る事が山の様にあると感じています。
① リーグガバナンス
リーグのチーム数を増やす、減らすの判断を下すのは誰でしょうか?リーグです。リーグが全体最適を考えて、チーム数の増減を検討し、実行に移すのです。本件に関しては、日本プロ野球機構、すなわちNPBがすべき判断です。しかし、日本プロ野球においえて今一番発言権があるのが、12球団で構成されるオーナー会議です。現在の球団代表の集まりであるオーナー会議が、将来にわたって繁栄するプロ野球、あるいは将来の野球像を語り、そこを目指して行く決定を下すのは非常に難しいと感じています。
今、侍ジャパンをはじめ、NPBの改革が徐々に進んでいるのを肌で感じています。この辺りの改革が進んで行くと、本丸であるプロ野球のガバナンスのあり方の改革も進んで行くのではないかと密かに期待しています。現在は、その外堀を埋めている時と思っています。ここのガバナンスの問題が解決されない限り、16球団に増やしたとしてもうまく機能しないでしょう。
② リーグの価値の向上
上記のガバナンスとも密接に関係していますが、プロ野球そのものの価値を向上できる余地は残っていると思っています。すなわち、リーグが一括して様々な権利を有し、それを活用して広く各球団に分配するのです。放映権などはそこが良く語られますが、それだけに限りません。現在、パリーグは、パシフィックリーグマーケティング(PLM)という会社を設立し、その部分に多少は取り組んでいますが、12球団で取り組む必要があります。ここを出来るようにするためにも、①のリーグガバナンスの改革が必要なのです。12球団が一体となって、まずはプロ野球そのものの価値を向上していく必要があります。
③ チーム経営の健全化
プロ野球はJリーグの様に経営の数字が公表されていません。しかし、色々な資料を読んで行くと、12チーム中、8チームほどが赤字経営だと思われます。こんな魅力のない市場に誰が好き好んで参入しようとするでしょうか?日本のプロ野球においては、実際は、親会社のメリットになる部分が多いのは確かですが、それだけの理由で参入して、簡単に事を成し遂げられるほど、この世界は甘くはないはずです。
日本のスポーツにおいてはまだまだ運営側がプロになりきっていません。こんな状況の中、プロチームが出来たからと言って、簡単に地域活性化が達成されるとは到底思えません。親会社頼みの経営の脱却が出来るようなプロの経営者、プロの運営者をもっともっと育てて行く必要があります。
④ 独立リーグも含めた育成システムのビジネス化
チーム数を増やして地域活性化、というのであれば、何もTOPチームを作る必要はありません。選手の育成、スタッフの育成の意味も含めて、下部組織を整備してみてはどうでしょうか?プロ野球傘下の2軍、3軍チームを日本各地に散らばらせて、組織的にリーグ戦を行い、各チームがそれぞれに地域に根差したビジネスを展開するのです。現在四国と北信越に野球の独立リーグが存在していますので、これらとうまく協力出来れば、それほど時間も掛からないのではないでしょうか?
政治判断としては、今すぐ結果が出る事をやりたいという気持ちは良く分かります。しかし、地域活性化に大きく貢献するようなチームを作るには時間が必要だと思います。プロ野球を政治判断で今16球団にするのは愚策だと思います。スポーツで地域活性化したいなら、もっと別な方法が考えられます。それは、総合型地域スポーツクラブを核とした地域スポーツの振興です。こちらも時間がかかります。しかし、種を蒔けば花は咲きます。上からUFO形式でチームを一部の地域に降らせるより、地元の人たちと一緒になってスポーツクラブを育成して行った方が、多くの地域に綺麗で大きな花が咲くのではないでしょうか?
【著書:「スポーツ業界の歩き方」も好評発売中!】
スポンサーサイト